「音松のオペアンプ道」も読者が増えてきて、"毎回楽しみにしています"というメールもいただけるようになった。今回は「知っていそうで知らない」の典型である、データシートの読み方を少し紹介してみたいと思う。
1.データシートとは
データシートはその型番のオペアンプのすべてが書いてある書類で、SPECシートとも呼ばれる。いまやどんな型番でもネットからダウンロードできるようになった。昔の生産中止品種でも古いIC専門のデータシートばかりを集めたWEBサイトもあって大変便利である。とにかくgoogleで型番の一部を入れるだけでどんどん出てくる。ほとんどが英語で表記されている為、読んでみるという気になかなかなれないだろう。しかし見るべきポイント決まっている、しかも全部統一したフォーマットになっているのでコツさえつかめば簡単だ。国産メーカーは日本語で書いているが残念ながらデータシートとしての内容はひかえめで最低限度のことしか書いていない場合が多いので参考になりにくい。やはり米国系の専門メーカーのデータシートはページ数も多く至れり尽くせりだ、しかも熱い!ではさっそく見てみよう。
2.LME49860を見てみよう
ナショナルセミコンダクタ社のLME49860は2007年に発表された比較的新しいオペアンプでオーディオ用途としての性能が大変優れている。価格も手ごろでNE5532、NJM2114、OPA2604などをこれに置き換えるユーザーが大変多い。データシートの最初のページには特長がまとめて書いてある。ここを読むだけで事足りる場合が多い。宣伝も書いてあるのでそこは差し引いて読む必要がある。しかし開発者の熱い思いが伝わってくるような文章が書いてある場合があるのでじっくり読んでみよう。図1:LME49860
LM49860はウルトラ低歪率、ローノイズ、高スルーレートで、ハイパーフォマンス、ハイフィデリティの用途専用のオペアンプファミリーの一部です。
先進的な最先端半導体プロセスと芸術の域に達した回路設計技術の組み合わせによりLME49860はすぐれたオーディオ性能を発揮すべく傑出したオーディオ信号の増幅を提供いたします。
……ウルトラ! 芸術の域! 何というすごい売り込みなんだ! ここまで読めばどれだけこのオペアンプがス-パーなのかという語りがひしひしと伝わってくる。 ではどこがそんなにすごいのだろうか?
先進的な最先端半導体プロセスと芸術の域に達した回路設計技術の組み合わせによりLME49860はすぐれたオーディオ性能を発揮すべく傑出したオーディオ信号の増幅を提供いたします。
LME49860はとてつもない低電圧雑音密度(2.7nV/√Hz)と消え失せてしまうほどの低THD+N、全高調波歪率+ノイズ(0.00003%)の組み合わせにより、ほとんどのオーディオアプリケーションが要求することをいとも簡単に満足させます。
……それはすごい!!
LME49860は±20V/usecという高いスルーレートと±26mAという出力電流能力をもってしてどんな挑戦的な負荷も妥協なしにドライブされることを確実にします。 さらに、2kΩの負荷の時に電源電圧の1V以内で出力、もしくは600Ω負荷の時は1.4V以内で出力の最大ダイナミックレンジがとれます。LME49860は突出したCMRR(120dB) 、PSRR(120dB)そしてVos(0.1mV)によりエクセレントなDC性能を発揮します。 LME49860は±2.2Vから±22Vという広い電源電圧範囲で動作します。これらの電源電圧範囲囲内においてエクセレントな同相モード除去、電源変動除去と低入力バイアス電流を維持します。LME49860はユニティゲインの動作でも安定しています。このオーディオ専用オペアンプは100pFまでの複雑な負荷に対しても突出した交流性能を発揮します。LME49860は8PINのSOパッケージと8PINのデュアルインラインパッケージで供給されます。評価用のボードもそれぞれのパッケージで準備しています。
……恐れ入りました……。もうこれだけすごいことを書かれれば文句はないだろう。でもほかと比べてみないとどれほどすごいのかがわからない。ほかはもっとすごいのかもしれない。興味があればOPA2604、OPA627、 LT1115なども見てみよう。比較表は「音松のOPAMP特集」からダウンロードできる。
3.具体的な性能の比較
オーディオ用において重要な項目は歪率(THD+Nとして定義する)ノイズ(入力換算雑音電圧)だろう。それと600Ω負荷のドライブができるか?これはプロオーディオの信号伝送インピーダンスが600Ωなのでその用途において使えるかどうかの目安として書かれている。これができないとプリアンプの出力のところに使ったときなどケーブルを介してパワーアンプがドライブできないのだ。ギターエフェクターにも参考になる項目だ。ヘッドフォンは30-50Ωなので600Ωと比べてさすがに負荷が重いのでオペアンプだけでは十分な低歪率と周波数特性でドライブできない。なので出力補強にトランジスタのプッシュプルエミッタフォロワ回路を追加する。がローコストのヘッドフォンアンプにはその辺はあまり気にしなくオペアンプだけで使っている場合が多い。600Ωでしか使えないというのではなく600Ωではこういうスペックになりますよ、30-50Ωではわかりませんけど、でも音は出ますよということである。
あと、重要なのはユニティゲインでも安定動作をするかということである。ユニティゲインとは増幅率が1倍のことであるが、なんで1倍? なんにも増幅しないのか? なぜ? それはバッファーとして使うからである。出力のインピーダンスを下げて信号を送り出すのである。ボルテージフォロワーともいう。この用途は結構多く、オペアンプ交換の時の注意すべき点である。ユニティゲインで安定しないオペアンプは発振しやすいので注意が必要だ。NE5534, LT1028などがそれにあたる。1回路入りにそういった例が多い。これは必ずデータシートに書いてある。
それと電源電圧範囲もよく見てみよう。±22Vまで使えるのはこのLME49860それとOPA2604ぐらいである。普通はだいたい±18Vが限度である。 よって±15Vで使うことが多い。電池での応用では低いほうも注意してみよう。
4.熱い思いをもっと
開発者の熱意が伝わるデータシートがほかにもあるのでちょっとここで紹介しよう。LT1028
The LT1028/LT1128's voltage noise is less than the noise of a 50Ω resistor. Therefore, even in very low source impedance transducer or audio amplifier applications, the LT1028/LT1128's contribution to total system noise will be negligible."LT1028/LT1128の電圧ノイズは50Ωの抵抗よりも小さい。よって十分低い信号源インピーダンスのトランスデューサーやオーディオアンプなどの応用ではLT1028/LT1128のノイズは全体のシステムの中では無視できるほどである。(※筆者の意訳)"
TPA6120(Headphone AMP-OPAMPではないがすごい表現だ)
This high bandwidth, extremely low noise device is ideal for high performance equipment. The better than 120 dB of dynamic range exceeds the capabilities of the human ear, ensuring that nothing audible is lost due to the amplifier. The solid design and performance of the TPA6120A2 ensures that music, not the amplifier, is heard."TPA6120は広いバンド幅、とてつもないローノイズで高性能機器には理想的である。この120dB以上のダイナミックレンジは人間の耳の能力を超えるので、このICが原因で聴こえるものを失うということがない。TPA6120のゆるぎない設計と性能はこのAMPの存在を忘れ音楽そのものを聴かせるだろう。(※筆者の意訳)"
5.さらに見ていこう
つぎはPIN Assignment(ピン配列)、Absolute Maximum(絶対最大定価)、Electrical Characteristics(電気的特性)と続いていく。これらはとても重要で読み方にコツがある、それは次回にしよう。それから各種データのグラフがある。これは参考データなのでない場合もあるが、たくさんグラフがあるほど自信があるということだと思っていいだろう。こんなにたくさん調べました、どうだ! と言わんばかりにある。全部見る必要はない、がこれだけはという重要なグラフがある、それはGAIN PHASE V.S.FREQUENCYだ。GB積という項目の場合もある。次回に紹介しよう。
ちょっと休憩
オペアンプの話題から離れてちょっと休憩しよう。「Glass Black 2」デジタル光ケーブルを紹介したい。CDのデジタルアウトをDACにつなぐ時に使ってみたら音が激変!よくこの言葉を使っているのを雑誌などで見るが、私はあまり好きな言葉ではない。なぜなら激変するほどの変化などそうないからであり、気安く使うとボキャブラリーの無さを露呈するからである。しかし今回は激変ともいうべき変化があったのだ。いややはりちょっとおおげさだ、正確には明らかな変化、しかも良い変化が認められたというべきだ。 私はデジタルケーブルは同軸を愛用していた、それは光よりは伝送上のジッターが少ないという説があったからだ。しかし多くのデジタル機器をDACにつなぐとINPUT端子が足りなくなってどうしてもどれかが光になってしまう。仕方なしに光ケーブルを使っていたが今回の「Glass Black 2」で考えが変わった。
光の良さを忘れていたのだ。光は電気的に接続しないのでグランドが機器の間で絶縁される。それがいいのだ。私のようにDACにCD、iPodトランスポート、PC(USB経由)、DDコンバーターそれとアナログINPUTも付いているので他のCDのアナログOUTなどを多数接続していると、各機器の間でのグランド電位の差があってGNDに微小な電流が流れそれがSNを悪化させたりジッターの原因になったりしているようだ。CDを試しにGlass Black 2に変えてみたら音が急に見通しがよくなり、滑らかさが出たのだ。
電気的につながっていないというだけで精神的にすっきりしていることが無意識のうちにプラシーボ効果になっているのかもしれない。しかしこれはいい!! ということで今メインのケーブルになった。
図3:作りのよいコネクター部
Glass Black 2はコネクター部もしっかりした作りで、OPT端子にかっちりと入り、ぐらつかない。ケーブルも程よい柔軟性で取り回 しもしやすい。他の光ケーブル2種(メーカー不明)も試したがどれもコネクター部が頼りなく、すぐ抜けそうだ。ケーブル皮膜も心もとない。しかしGlass Black 2は皮膜もよい。あらゆるケーブルにとって、中身の銅線や光ファイバーは重要だがその皮膜はそれ以上に重要だ。振動を抑える、湿気や熱を遮る、ノイズを遮る、あるいは出さない、曲げやストレスに強い、などは皮膜の性能がよくないと達成されない。Glass Black 2はこの皮膜にも細心の注意を払って作られているようだ。光なのであまり曲げたりしないほうがよいだろう。しかし他のACラインやスピーカーケーブルと入り組んでもノイズが全くのらないのがやはり光のメリットだろう。もし、以前からこの製品があれば前途の説は無かったかもしれない。Glass Black 2の作りはここに詳しく紹介されているので参考にしてほしい。【Glass Black 2 作り方をみる】
3ミクロンのガラス繊維、280本束ねてある。樹脂ではなくガラス繊維であるのが特徴で、それにより信号の伝送ロスが少なくまたジッターも少ない。192kHzのHDオーディオにも十分使える性能だ。
図4:①高純度ガラスファイバー
②衝撃保護材 ③対振材 ④PVC被覆部
図5:こんな時でも光なら他との干渉が無いので安心できる
1.5mで6,980円はガラス繊維ではかなりお買い得価格
米国テキサス州の半導体会社にて長年デジタルAVのLSIの企画開発やマーケティングを担当。はじめて使ったオペアンプはRC4558で、学生時代のエレキギターエフェクターは自作だった。アナログからデジタルまでの幅広い知識と経験を生かし、現在は各種オーディオコンサルティングやアンプの設計製作に専念。ハンドメイドオーディオ工房"オーロラサウンド"所属。趣味はギター演奏。
データシートでは動作範囲外のLT1028ACNをなんとか一倍動作させることはできないでしょうか?
フィードバック抵抗に33pFのコンデンサをパラレルにつける方法があります。
LT1028は2倍以上の増幅率の応用でないと発振します。しかし1倍で発振を避けるためには、データーシートの13ページに書いてあるようにフィードバック抵抗に33pFのコンデンサをパラレルにつける方法があります。しかし信号源インピーダンスが50Ω時のようですので、お使いの回路がこれに当てはまるかどうかお調べください。