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オペアンプICについてオーディオとの関係をひも解いてみよう。
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図1:現代のオペアンプIC OPA627
バーブラウン(現テキサスインスツルメンツ社)提供
オペアンプはアナログ半導体の代表としてさまざまなところで応用されている。見かけは黒い小さいプラスティックでピンは8本しかないがその機能や歴史は分厚い本が何冊も書けるくらい奥が深い、オーディオではあまりよいイメージが無いらしく"このアンプはオペアンプICを使わずにディスクリートトランジスタで回路を組んだ"と言う決まり文句をよく見かけるが、実際のところその能力や音は過小評価されているように思う。現代の内外のハイエンド機器のほとんどがオペアンプを使っているし、マークレビンソンやマッキントッシュにいたっては今やオペアンプで主要回路を構成しているものもある。またスタジオ用録音機器はオペアンプを数十個も使っておりもはやオペアンプなしの音を聴くことは不可能であろう。オペアンプ、いわゆるオペレーショナルアンプリファイはアナログコンピュータ用の演算素子として開発された。1940年代、高射砲の照準をより早くより正確に合わせるために機械式の方式からエレクトニクスを応用した制御方式になりそこに応用されたのが始まりである。ちなみにIBM社はそれを事務用機器に採用して大きくなった。1950年になってGAP社が12AX7を2本使った演算素子"K2-W"を開発した。これは+/-の差動入力2本、出力1本、電源は+/-2つという極めてシンプルな構成ながらフィードバック理論を応用して、入力インピーダンス100MΩ、出力インピーダンス1Ω、DCから100kHzまで増幅できるという優れた8ピンのモジュールである。これを使ってアンプ、加算器、発振器、各種フィルター、安定化電源など様々なものが外付けのC,Rだけで作れるのだ。まさに今のオペアンプICはこの思想をそのまま継承している。このK2-Wは最近よくアメリカのeBAYで見かける。アンティーク派のコレクターアイテムになっているらしい。
さらに詳しいことを知りたい方はここを参照願いたい。ハイファイ分野にも参考になる情報がたくさんあるであろう。
【参考 : George A. Philbrick Researches │ Operational amplifier models】
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図2(左) : 1950年代GAP社のカタログより │ 図3(右) : 内部回路図
このオペアンプであるが、その後トランジスタに変わってさらにワンチップ化した半導体素子、いわゆるICになるのは1960年代後半である。ナショナルセミコンダクタやフェアチャイルドが同じ8ピンで現在の形と同じパッケージのものを開発した。しかしオーディオへの採用はかなり後になってからのようだ。増幅率、周波数特性、入出力インピーダンスは十分であったがオーディオにとって重要なパラメータである低ノイズ、低歪率が実現するのが1970年代中ごろにレイセオン社より発表されたRC4558までまたねばならない。さらにノイズや歪率を改善したものがシグネティックス社より発表された、それがNE5532である。この2品種はオーディオに革命的とも言える変革をもたらした。いままで何十個とトラジスタを使って組んでいた回路がたった1個のICでしかもR/Lステレオ分できるのだ。またCDの出現によって精密なローパスフィルターの必要性が高まり、このオペアンプがそれを低価格かつ省スペースで解決できたので益々採用が広まった。特に恩恵を受けたのがスタジオ機器である、またギターエフェクタや電子楽器の分野でも大いに活躍しまた今でもその地位は揺るぎない。アメリカの高級オーディオメーカは進んでオペアンプICをプリアンプ部に採用した。前述のマッキントッシュはC29からはオペアンプが全面的に主要回路に採用されている。またCDプレーヤは内外問わず低価格から最高級機種までDAコンバータの後の回路はほとんどオペアンプである。オペアンプも使い方さえ間違えなければ十分音がよいことの証明である。
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1980年発表のマッキントッシュプリアンプ
C29プリアンプ部はオペアンプばかりで回路を構成している内蔵
されているモニター用小パワーアンプはデュスクリート
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NE5532おなじアンプが2個内蔵されている
「ON Semiconductor社」データシートより抜粋
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アキュフェーズ社の最高級DAC
DC-801 オペアンプがDACの後に片チャンネル7個見える
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NE5532内部回路 : 入力は+/-の差動、出力は一つ、電源は+/-20V、位相補償用コンデンサが内蔵されて使いやすい
- ナショナルセミコンダクタ社のデータシートより抜粋 -
外付け抵抗数本だけでゲインや周波数特性を決められる。入力インピーダンスが大きく出力インピ-ダンスが無視できるほど小さいのでAMPの間に挟まっているCRのEQ素子は一般的な定数でOKである。
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R2がフィードバック抵抗。
増幅率はR1とR2で決まる、新日本無線の資料より抜粋
また内部信号回路をすべてFETで構成したユニークなオペアンプICもある、バーブラウン(現TI社)のOPA2604であるが、これは音もよいのでいまやオーディオ界では主流になりつつある。ここでオペアンプ回路と真空管回路の最大の違いを見てみよう。それはフィードバックを前提としているということである。オペアンプはオープンループゲイン、つまり何も外に抵抗をつながない裸の場合のゲインは約100dB,10万倍以上あるのでいかに多くのネガティブフィードバックをかけてゲインの適切な調整、周波数特性の調整、SNや歪率の劇的な改善を行う。同時に出力インピーダンスも1Ω以下となって理想的なアンプに近づくのだ。しかし真空管アンプ回路は全く逆で裸の特性をいかによくして、あとで薄化粧的にネガティブフィードバックをかける。オーディオマニアにはネガティブフィードバックなし信奉が根強くあって、これが半導体アンプ嫌いの一因ともなっているように思うが、単純なNFBありなしや多い少ない議論でなく、全く違うプロ―チであるので比較しても仕方ないのだ。
米国テキサス州の半導体会社にて長年デジタルAVのLSIの企画開発やマーケティングを担当。はじめて使ったオペアンプはRC4558で、学生時代のエレキギターエフェクターは自作だった。アナログからデジタルまでの幅広い知識と経験を生かし、現在は各種オーディオコンサルティングやアンプの設計製作に専念。ハンドメイドオーディオ工房"オーロラサウンド"所属。趣味はギター演奏。