OPAMP道

みなさんお久しぶりです。オペアンプ道ファンの皆様には長らくお待たせしてしまいましたが、記念すべき10回目ということで、また張りきって面白いネタを書いていきますので何卒よろしく!

今回は新製品のHUD-mx2だ。今までのmx1とどこが違うのかを斬り込んでいきたいと思う。
mx1とmx2、見かけは似ている、これは同じケースを使ったからであろう、定評のあるデザインなので変えないほうが良いとの判断だろうか、でも奥行きが長くなっているぞ。値段も実売価格で約1万円以上高い、これはきっと良くなっているのに違いないと思い、中を開けてみた。

HUD-mx1

HUD-mx2
USBもしくはOPTの入力切り替えSWが増設

HUD-mx1

HUD-mx2
OPTの入力ジャックが増設

HUD-mx1

HUD-mx2

おや!全然違う設計になっている。まず入力部から見てみると、USBインターフェースLSIは台湾テノール社のTE7022から同じく台湾のVIA社のVT1728に変わっている。テノールは2-3年前の定番ICで、96kHzが受けられる製品がこれしかなかったため、世界のほとんどのメーカーが採用していたが、88.2kHzをサポートしていない弱点があった。VIAはこれを克服してさらに192kHzまでサポートしたので今や完全に市場を取ってしまった感がある。テクノロジーの進歩と競争は早くかつ厳しい!しかしmx2では96kHzまで押さえた仕様となっている。これはPC側のドライバーSWのサポートの煩雑さを避けて、より実用的なスペックを選んだのであろう。さらにmx2にはOPT入力用に旭化成のAK4113が追加されている。これでOPT入力は192kHz24bitまで対応可能となった。

DAコンバーターはウオルフソン社WM8740から好敵手のTI/バーブラウンPCM1796に変わっている。PCM1796は電流出力のため、外部にIVコンバータ回路が必要になって複雑になるが、音作りに自由度があるので私の好みのLSIである。よってmx2の基板上にはIVコンバート用のOPAMPであるLME49860のSOパッケージが2個見える。
その先にはディファレンシャル信号を合成するOPA2222、そしてローパスフィルターのOPA2134がある。mx1に比べてOPAMPが2個も増えている。またフィルター部の抵抗が、チップ抵抗からDALEの軍用のRN55シリーズにグレードアップされている。

そして極めつけの変更はヘッドフォンアンプ回路である。mx1ではAD8397であった。これは第6回、第8回でも書いたが低電圧でも非常に力持ちのOPAMPでポータブルヘッドフォンアンプに最適なICであるが、mx2ではなんとそれがTI社のヘッドフォン専用高級ICのTPA6120に変わっている!
このICは第3回で少し紹介したが、とてつもないスペックの持ち主であるが、また使い方が難しい。電流帰還形という構造でダイナミックレンジ120dB、スルーレート1300V/usecという数字はOPAMPとは一線を画す。
ちなみにAD8397のスルーレートは53V/sec、これはOPAMPとしては十分なものであるが、TPA6120の前ではほとんど自転車と新幹線くらいのスピードの違いであろう。TPA6120はとにかく反応が早いので打撃音などの立ち上がりが鋭いのだ。

これだけの変更があるので奥行きが長くなった理由がやっと分かった。でもこれは消費電力がだいぶ増えているのではないか?と心配になった。USBバスパワー機器なので、規定の500mAを超えるとPCによっては電力不足となってしまう。
そこで実際に測ってみた。96kHz24bitの音楽を鳴らしながらの測定、使用したヘッドフォンはゼンハイザーHD598、PCはMacBook-Pro 13インチでAmmaraにて再生。

HUD-mx1 : 283.3mA

HUD-mx2 : 200.32mA

両方ともUSBバスパワーの規定の500mA以下であるが、あれ!なにかおかしい? mx2のほうが消費電流が少ない。あの大飯ぐらいのTPA6120を使い、さらにOPAMPが2個から4個に増えているのに。 そこでOPAMPに来ている電圧を測ってみたらmx1は+/-8V, mx2は+/-5Vである。なるほどmx2は電圧をギリギリまで押さえて消費電力を下げる巧みな設計になっているのだ。
しかしこれだけのそうそうたるLSI群を+/-5Vではもったいない、Audinst社のエンジニアがそれで満足するはずがない。ひょっとしたらACアダプターを使えば電圧が上がるという設計になっているかも知れないぞ?と思い、ACアダプターをさしこんでみたら、なんと、予想どおり+/-11Vまで上がったのだ。

さすがAudinst! PCのUSBバスパワーではぎりぎりの低消費電力設計、ACアダプターを使えばそのポテンシャルを発揮するハイパーフォーマンス設計になっていたのだ。

良く考えてみるとmx2ではOPT入力が追加されている。これはCDやMDプレーヤなどの外部デジタル機器を接続できるようになっているのだが、その時はPCのUSBにはつなぐ必要はないのだ。よってACアダプターで電力供給する。
mx1はUSBしかつなげないので電力は常にそこからもらえる。つまりmx1はPCありきの設計、mx2はPCありでもなしでも使える設計で、ACアダプターを使ったほうがよいという思想のようだ。

ここまできたので、そのアナログ性能をオーディオプレシジョン社の測定器で測ってみた。
下記のようにACアダプターを使うと全高調波歪率+ノイズが約2倍ほど改善されている。これは電源ノイズや安定度の品質の違いではなく、電圧が+/-5Vから+/-11Vに上がったのでアナログ部の性能が発揮されたのではないかと思う。またUSBバスパワーではPCの電源リップルノイズが50Hzあたりに多く見える。

HUD-mx1 : 1kHzのFFT解析、USBバスパワー、40Ω負荷

その全高調波歪+ノイズ

HUD-mx2 : HUD-mx2 : 1kHzのFFT解析、ACアダプター、40Ω負荷

その全高調波歪+ノイズ

では音を聴いてみよう。 mx1,mx2両方ともACアダプターを使った。ヘッドフォンはゼンハイザーHD-598、PCと再生ソフトは前述のMacBook-ProとAmmara。
mx1は元気でメリハリのある音だ。実際に出力レベルが大きい。HD-598ではうるさいくらいに大きな音が出る。また温かみのある音の傾向でもあるようだ。
mx2は透明感があってエッジが効いている、さすがTPA6120を使っただけはある。また都会的でちょっと冷たい感じがするがこれがまた魅力的だ。JAZZがクールに聴こえる。音量は控えめだが十分であり、むしろ品質にこだわった音であると感じた。私の好きな音である。

mx2は機能が増え、また巧みなパワマネジメント設計によって、使うシーンにおいて適切な動作ができるように発展されている。価格は若干高いが、十分その価値はあるだろう。
 
米国テキサス州の半導体会社にて長年デジタルAVのLSIの企画開発やマーケティングを担当。はじめて使ったオペアンプはRC4558で、学生時代のエレキギターエフェクターは自作だった。アナログからデジタルまでの幅広い知識と経験を生かし、現在は各種オーディオコンサルティングやアンプの設計製作に専念。ハンドメイドオーディオ工房"オーロラサウンド"所属。趣味はギター演奏。