OPAMP道


今回からはAUDIOTRAKの「DR.DAC3」のOPAMPをいじりまくって、更なるグレードアップに挑んでみたい。本製品は基本設計がしっかりしている上に第3バージョンになって、ほとんど完成の域に達したと思う。この価格帯でこのサイズで見れば機能、性能、使いやすさ、音質、プリント基板、ICの選択、部品の配置、電源回路の充実、ケースや各ジャック、つまみなどもうこれ以上改善の余地が無い。しかし、OPAMPの交換ができるのでどうしてもやってみたくなる。これから3回に分けて各ブロック部のOPAMPを交換してその変化をレポートしていくことにした。まず各ブロックを再度見てみよう。

OPAMP Filter部には3個のOPAMPがある。上下に並んでいる2個はIV変換回路とよばれ、DAC PCM1794のアナログ出力信号を電圧に変換する部分だ。オリジナルでは2回路入りのNE5532が入っている。この部分はダイナミックレンジや歪率を左右する非常に重要なところで、ハイレベルな精度が要求される。192kHz/24bit、つまり約100万分の5.2秒の瞬間に168万段階の分解能の信号の変化に即座に対応できなければならない。しかもノイズがあってはそれが邪魔になってノイズに埋もれてしまう。よって、ここは音質が良いことだけを謳っているOPAMPでは少し心もとない。こういう高精密測定器並みのSPECにも耐えられ、しかも音がいいOPAMPとして、今回は2010年発表のLME49990を推奨する。(※LME49990の概要について)

残念ながらLME49990は1回路仕様のOPAMPのため、NE5532とそのまま置き換えるには変換アダプターが必要だ。幸いなことに裏表にLME49990を2個搭載し、しかもサイズがNE5532と同じというものが秋葉原などで販売されている。(※Wisetech Directでも販売)

早速交換してみた。この裏表基板に2個搭載されているタイプは、どの向きに差せば良いのか判りにくいので、下記の図を参考にしてほしい。足が8PINあるが、一箇所だけ四角マークがあるのでそれがNo.1のPIN である。

まずは音を聞いてみた。第一印象は雑実が無くなってすっきりした感じだ。とくにJAZZのシンバルの響きがいい。ベースも良く音程感がわかるし、音楽にメリハリが付いたように聞こえる。音と音の間の空間が広がったようである。こういうリスニングインプレッションは、いたって当人の主観がほとんどで第三者では違った印象になりがちだ。絶対的な良し悪しは誰でもすぐわかる。これは料理やお酒が美味しいかまずいかと同じで、明らかに美味しい場合は100%誰が食べても美味しい。特別な舌や感性は必要ない。
ただし、今回のようなハイレベルな音の比較は、個人個人の好みや過去の経験、そのときの状況に応じた思い入れが影響する。しかもそこに価格の要素が入ってくると、また冷静になったりもするだろう。
NE5532は2個で168円(秋葉原調べ)、LME49990裏表基板付は2個で6,800円(三栄電波ドットコム)である。どっちが良いかは皆さんのご判断に任せるが、私はLME49,990にするともう後には戻れない。

では主観的な感想はやめて測定器による冷徹な結果を見てみよう。96kHz/24bitの1kHzサイン波のデジタル信号を入力し、そのアナログ出力を測定した。アナログ信号はLINEアウトからとっている、そのほうが測定に誤差が少ないからだ。そのアナログ化された信号をスペクトラム分析してみた。
本来なら1kHzしか出てこないはずだが、どれくらいそれ以外の信号が誤って混じっているかを見ている。いわゆる高調波やノイズがどれくらい作られたかである。このテストはDAコンバーターが正しく正確に仕事をしているかを見るのに丁度良い。理想は1kHzしか出てこないはずである。

オリジナルのNE5532搭載時は1kHz以外に2k、3k、4k、5k、7k、9kの信号が見える。これらが高調波歪というもので、全部あわせてTHDと呼ばれる。特に3k、5k、7k、9kは奇数次高調波と呼ばれ、耳に刺激的に感じられるものである。それが段々と小さくはなっているが、厳然と存在している。

先に断っておくが、今回使用した、オーディオプレシジョン社の測定機器があまりにも精度が高く、シビアでハッキリとした検証結果を表すことに成功している。

ではLME49990に変えてみたらどうだろうか。高調波が少ないのが一見してわかる。しかも全部レベルが小さい。これでLME49990のほうが聴感的にも好ましく、「6800円の元が取れる」ことを裏付ける結果となった。
しかし音質の好みは測定を超えた世界のレベルであるので、全員がこっちのほうがよいとは限らないだろう。

さて、堅い話はこれくらいにして、前回に引き続きヘッドフォン評価に最適な音源を紹介しよう。
ビートルズの「LET IT BE」は誰もが知っている名曲であるが、それに隠されたオーディオ的な聴き所がある。曲半ばでジョージハリソンが弾くギターソロがあるが、これは実は2種類のトラックが同時に聞こえるのである。
普通は音の大きい方のトラックしか聞こえないが、耳を凝らすと音がかなり小さいが、別テイクのトラックが裏で聞こえるのである。これが聞こえればあなたのヘッドフォンAMPとヘッドフォンは十分ハイレベルであると思ってよいだろう。
また、ギターソロの後にまた歌が始まるのだが、バックのリンゴスターの叩くシンバルが歪むこと無くきれいに響けばOKだ。このシンバルは真ん中の丸く盛り上がったカップと呼ばれるところを叩いている。


この後期アルバムはフィルスペクターがプロデュースしたそうだ。

ビートルズを良い音で鳴らすのは難しい。
凡庸なシステムではガチャガチャした感じでうるさくなってしまう。良いシステムでは各楽器やメンバーの特徴がわかって面白い。また初期ビートルズではその荒削りで一発録音の魅力がたまらない。
 
米国テキサス州の半導体会社にて長年デジタルAVのLSIの企画開発やマーケティングを担当。はじめて使ったオペアンプはRC4558で、学生時代のエレキギターエフェクターは自作だった。アナログからデジタルまでの幅広い知識と経験を生かし、現在は各種オーディオコンサルティングやアンプの設計製作に専念。ハンドメイドオーディオ工房"オーロラサウンド"所属。趣味はギター演奏。
オペアンプと言えば、カップリングコンデンサは付き物かと思いますが、ピュアオーディオの世界では、「カップリングコンデンサ=悪 」の様な構図も見受けられ、カップリングの選定に悩むことがしばしばです。
直流遮断を考えると、必ず入れておかなければならないのは理解しておりますが、カップリングの数が多くなる程、音質的に不安になります。この点において、プロの見解をお聞かせ頂けると幸いです。また、カップリングには両極性(BP)コンデンサを"何となく"使うことが多いのですが、オーディオ用の極性のあるコンデンサでも問題無いのでしょうか?
 
カップリングコンデンサは無いほうがよいというのはコンデンサによる色付けを嫌うからでしょう。
しかしよいコンデンサを使うとその音色がまた魅力になったりします。「ポリプロピレン」は、オーディオ周波数帯域に対して歪が少なく、リーク電流や等価直流抵抗も少なくて、理想に近い特性を持っていますのでカップリングに最適です。しかし価格が高く、形状が大きいので小型AMPにはスペースが合わないという問題があります。場所が無い場合は「メタライズドポリエステル」で妥協できるでしょう。セラミック、マイラ、電解、OSコンは適しません。両極性BP電解はメーカー製AMPに時々見られますが、0.1uFくらいのポリプロピレンをパラレルに接続すると、高域の特性が改善されます。